XX. JUDGEMENT -審判-
「XX JUDGEMENT 審判」のカードは、復活、(高次元からの)呼びかけ、回復、啓示、魂の覚醒といった意味をもつとされます。キリスト教の「最後の審判」の日に天使がラッパを吹き鳴らし、生前に善行を積んだ死者が墓から蘇る様子を描いていると言われています。
カードナンバーは20、2+0=2のバリエーション。「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」の2→「XI STRENGTH 力」の11→20「XX JUDGEMENT 審判」の流れです。
ドラマチックな絵柄。制作過程ではどんなやりとりがあったのでしょうか? はじめに三上さんにカードの象意を伺ってみましょう。
三上牧(以下、三上) 神が合図すると、天使がラッパを鳴らし世界の終わりを開始する。その際に天国に行くか地獄に落ちるかを判断されるのが「最後の審判」。キリスト教の聖書にも載っていますね。
上部にラッパを吹く天使が描かれ、下に海、墓があり、そこから復活して喜んでいる死者たち。人物は男女とその子どもで、男女は「XIX The SUN 太陽」のカードに描かれていた二人の子どもと言われています。
最初のラフ絵では子どもがバランス的に小さすぎるような気がして、少し変えていただいたんですよね。
川口忠彦(以下、川口) そうでした! パース的な効果を考慮してこころもち小さくしていたのですが、ご指摘いただくとたしかに小さすぎたので調整してこのようになりました。
三上 未来の象徴である「こども」のほうが次の「XXI The WORLD(UNIVERSE) 世界」カードとのつながりを彷彿させるので重要ですね、位置も真ん中ですし。
――なるほど、そうなんですね! ところで、マルセイユ版でもウェイト・スミス版でも、天使はバストアップなのですが、川口さんは天使の全身を描いているところが素敵だと思います。
川口 自分としては、いかにも最後の審判らしく、上から天使が降臨している王道の絵柄にしたかったんです。
旧来の上半身だけの天使という絵もわかりやすいし愛嬌があっていいのですが、説明的すぎる。天使とラッパをぽんと描いて終わりというのでは絵描きとして物足りないし、自然なポーズで描いてみたいと。
それで、以前制作したマシリトというバンドのジャケットアートワークのイメージをベースに考えたんです。マシリトのために、女の子だけれども死神みたいなキャラクターを描いていて、それが降臨してくる絵があって、「XX JUDGEMENT 審判」を描くにあたって使えそうだなと思っていて。死神のように鎌を持つのではなく、マイクスタンドを持っているところがミソのキャラクターでした。
――カッコいい!
川口 ここでは見上げのアングル的な空間を作りつつ、天使のほうはやや記号的な角度で描いています。全体的にこのカードらしい、ドラマチックな雰囲気を出したいと考え、演出しています。
三上 上からの指令がまっすぐ地上に降りて魂が復活するきっかけを作るファンファーレという雰囲気がよく出ていると思います。
そういえば、ラフでは天使が人間に近すぎる気がしたんですよね。ここで描かれているのはミカエル(ガブリエルという説もあります)という上位の「四大天使」で、人間にはあまり意識を向けない存在なんですよ。だから、もっと神々しく人間との間に距離があったほうがいいのではと申し上げた記憶があります。
川口 それで完成版では少し離してみました。天使の描き方ともうひとつ僕が気になったのは、ウェイト・スミス版で人物たち=死者ということで灰色で描かれていた点です。個人的に、このあたりが記号と絵画の境界線だと感じているんですが、人体が灰色で描かれていると、たしかに死者らしさはよく伝わるんだけれども、違和感があり、恐怖心も煽られる。
自分としては絵画というのは基本的に視覚的な心地よさや調和を目指していくたいと思うので、ここでは「ゾンビ感」(笑)を出し過ぎないで、青みはあるけれどそれは陰でもあるという表現にして、言われてみれば死者っぽい、ぐらいのところに抑えました。
――三上さんに質問なのですが、「XX JUDGEMENT 審判」のカードでは、海が強調されているデッキとそうでないものがありますよね。このカードの海はどういう象徴ととればいいんでしょうか。
三上 海とは魚座の領域です。すべてが海に流れ込んで混ざり合った生命のスープ。人間の体だと、羊水でしょうか。命が生まれてくる多様な要素を含んだ水。栄養源であり、胎児を保護する役割もある。
占星術の12サインで魚の次にくる牡羊サインというのは、みんなと一緒は嫌だとその混沌の中から飛び出してきた個人の魂です。
「XX JUDGEMENT 審判」のカードは、ラッパの音という刺激によって魂が水と分離し、個人として目覚めることともとれますね。次の「XXI The WORLD(UNIVERSE) 世界」では完全に分離して個人となる。その存在が集団から外れ独りさまよう「The FOOL 愚者」につながっていく流れです。
――ひとつの象徴でも、そういうふうに22枚の流れのなかで考えていくと興味深いですね。
三上 この空の色は2パターン見せていただいたんですよね?
川口 ウェイト・スミス版と同様に「青空と天使の翼が赤」なのと、「赤い空に翼が白(?)」のと2パターンでした。赤い空のほうがものものしく劇的な感じがしてそちらを推していたのですが、三上さんがおっしゃった「空を白にしてみては?」というアイデアがヒントになって、完成版では上から青、白、赤(ピンク)、黄色とグラデーションにして空間のスケールと、朝焼けあるいは夕焼けのドラマチックさを出しました。空を平面的に処理していることの多いこのデッキのなかでは、このカードでのみ採用した表現です。
三上 背景にも迫力が出て、象徴と馴染んでいる気がしました。この白の使い方は効果的ですね。
川口 ありがとうございます、こういう手法はこのデッキを描く中で学んできたことだと思います。
――今回も、川口さんと三上さんのやりとりのなかで絵が完成していく過程がよくわかりました。
「XX JUDGEMENT 審判」のお話、いかがでしたか?
前回の「XIX The SUN 太陽」あたりから「青い鳥たちとともにある」感じが出てくるとのことでしたが、「XX JUDGEMENT 審判」では空を舞う鳥が復活の感じを盛り上げていますね。さて。次はいよいよ「XXI The WORLD(UNIVERSE) 世界」のカード。大団円となるわけですが、どんなお話が聞けるのでしょうか。どうぞお楽しみに。
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注 ウェイト・スミス版:ライダー社の、通称ウェイト版のこと。パメラ・スミスが作画を担当したことも考慮に入れ、この対談ではこのように表記します。
[取材・構成 藤井まほ]