top of page

XI. STRENGTH -力-


XI. STRENGTH -力-

 



トーキングアバウト青い鳥のタロット、今回は「XI STRENGTH 力」のカードです。このカードは、「本能と知性のバランス」「自然VS人間」「自己統制力」「勇気」「力」「動物性(自然、本能)への接近」といった意味を持つとされます。11の数字は、10を相対化して古い価値観を覆す、新しい未来を作るといった意味に読まれます。1+1で、2のカード「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」のバリエーションのひとつともされます。デッキによって、8と11が入れ替わっているものもありますが、青い鳥のタロットでは「VIII JUSTICE 正義」と「XI STRENGTH 力」にそれぞれ割り振ると決まった経緯は、「VIII JUSTICE 正義」の回でも話題に出ていましたね。見逃した方は、そちらもご覧ください。



今回は、まずは11としての「力」についてうかがいましょう――

 

三上牧(以下三上) 「XI STRENGTH 力」のカードには、ライオン=百獣の王を押さえている女性が描かれています。11は、1と1。1対1で拮抗する本能VS理性を表していると言われます。ということは、一方が他方を上回るのではなく、同じくらい大事だという意味にもとれます。本能むき出しでもダメだけど、理性ばかりでも生きられないという感じでしょうか。魂と心の葛藤みたいな読み方もできるかもしれません。ライオンは自然界、原始的な荒々しい力。人間の獣的本能部分もしくは地球における自然秩序を表すとされます。それを押さえつける女性は、人間の理性の部分とも言えます。文明がうまく自然と共存しているとも、人間の都合で自然界を曲げて押さえつけるともとれますね。一方、人間社会で獣的な本能をそのまま野放しにすれば、秩序を乱す悪とされるので、それを理性でコントロールするとも読める。自分の中の理性(知性)と野生(本能)のせめぎ合いともとれるでしょう。レムニスケートと呼ばれる無限大マーク(∞)が、マルセイユ版では帽子のつばに、ウェイト・スミス版では頭上にあしらわれています(このマークがあるのは「I The MAGICIAN 魔術師」と「XI STRENGTH 力」の2枚だけで、ここで方向性が逆転することを意味します)。そんなふうに当初はお伝えしたんでしたよね?


川口忠彦(以下川口) そうでした。このときもそうでしたが、三上さんの解説はいつもスパッと意識の中に入ってきて、とても助けられました。


三上 わたしもタロットの理解が深まるので楽しかったです。自分でも真剣に絵柄を考えるので、身になったんですよね。川口さんとやりとりするうちにタロットを読む腕前がメキメキ上がったのを感じていました(笑)。


川口 このカードで最初に悩んだことのひとつは、女性とライオンの関係性でした。押さえつけていると言いますが、ウェイト・スミス版ではなつかせているように見えますよね。

 

三上 ウェイト・スミス版の絵だとややわかりにくくなってしまっていますが、「XI STRENGTH 力」のカードの基本的な意味では、普通の人間が力ずくでは押さえられないライオンを、この女性は何らかのコツによって猛獣使いのように押さえ込んでいる、というのがポイントなんですよね。ただ、猛獣使いと言っても、鞭などの小道具は使わないんです。


川口 そううかがって、素手でライオンを手なずけている絵にしました。



――この黄色っぽいバックは、青い鳥のタロットではややめずらしいのでは?


川口 そうです。22枚のなかでほかに黄色ベースのカードはなかったんです。ウェイト・スミス版も黄色だったので、イメージが結びつきやすいようにと配慮しました。


三上 女の子がかわいいのに対して、ライオンは獰猛そうなのがいいですよね。花冠も踏襲しているんですね。


川口 はい。自分なりに工夫したのは、「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」との関連カードとのことだったので、ライオンのたてがみに星座をあしらったところです。三上さんの説明のほかにも書籍などの、「ライオンは本能的な欲望の表れであり、女性はそれを抑圧するのでではなく、抑制(制御)している」という記述や、「『II The HIGH PRIESTESS 女教皇』のカードでは本来従うべき規範やマニュアルとして考えられている本能的な要素を、『XI STRENGTH 力』のカードはコントロールすべき対象と見做している」といった説明を自分なりに解釈しました。「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」では背後にあって、不動のもの、従うべき絶対的なものとして存在した宇宙を、ここでは眼前に対峙してコントロールする対象として描いています。あと、自分の中では本能的な欲望とは仏教で言う無明(のプリミティブな解釈の一つ)であり、命あるものが必ずもつ大きな力のうねりと考えていまして。それを表す意味での宇宙(星空)でもあるんです。


三上 ウェイト・スミス版のライオンはよく見ると狛犬みたいですよね。


川口 まず、この女性とライオンの大きさの比率に違和感がありますよね。三上さんが先ほど指摘されたように、絵の意味から言ってもライオンが相対的にもっと大きくないとおかしいので、そこは注意しました。そして青い鳥は、理性をもって本能と調和することは、成功すれば青い鳥的な幸せの実現に限りなく近いと思ったので、ライオンのたてがみに止まらせてみました。


三上 ライオンの毛が炎みたいになっていますよね。


川口 周りにちょっと火の粉のように散らせたのも、そういうイメージで描いたんです。


三上 物質的な存在というよりも、スピリット体のような、面白い描き方です。ところで、私はこの絵の背景の模様がすごく気に入ってるんですよね。魔法の呪文かけてるみたいに見えるし。魚が降ってきてるみたいだし。



――何か意味がある模様なんですか?


川口 象徴的な意味はなくて、純粋に視覚的なデザインですね。完成したとき、三上さんからメールで「この模様にはどういう意味があるんですか」と訊かれたときは、そこを突っ込まれるかなと思いましたが気に入っていただけたという(笑)。



――川口さんのほかの絵では19世紀末美術の本流をいってる感じなのに、これだけプリミティブアートっぽくて、最初に見たときはやや異質な感じがしました。


三上 縄文ですよね。


川口 じつは僕のルーツってそういうところにあって。大学時代は古代文明を彷彿させる絵を描いていたこともあるんです。壁画っぽいのとか。いまでもリラックスして描いているときはそういうルーツ的な要素がふわっと出てくるんですよね。青い鳥のタロットでは「XI STRENGTH 力」の背景と、「XIX The SUN」のモザイク的な処理で表れていますね。ちなみに、2回目の個展のときに突然爆発的に人気の出たカードだったんですよ、これ。


三上 キャラクター性高いですよね。


川口 他の女性たちがスーパーモデルもしくは女神系で、このカードでは“ガーリーな”子で配役できるかなと考えたんです。


三上 「XI STRENGTH 力」の女性は理性や知性の象徴として賢そうに見えてほしいので、あまりチャラい感じにはしないでくださいと念押しした記憶があります。


川口 それで、服の色を知性や冷静さを象徴するブルーに変えたり、ブーツを履かせたりして調整していきました。結果、このデッキの中で一番、超越しすぎていない、肉体性のある人物になったように思います。こういうポーズものは、いかに従来版と離すかが大事で。うっかりすると同じ構図で描いてしまいがちなんです、そのほうが簡単だから。いかに違いを出して、しかも絵になるようにするかが課題。そこが絵描きとしての訓練の成果が問われるところなんですね。


三上 色の感じも、ライオンの星座模様もいいし、ミステリアスな感じがとても好きなカードです。でもやっぱり、個人的にはバックの波模様のようなのがいちばん気に入っていて……。(笑)


川口 こんなにいろいろほかのところで苦労した話をしているのに、一番簡単に描いた波が好きってねぇ(苦笑)。でも、そういうもんなんですよね、絵って。ささっと描いたようなところが案外よくって、苦労したところは意外と報われないような……。


――報われてないことはないんじゃないですか?


三上 そうそう、その苦労があるからこそ、簡単に描いたところも目立つのかもしれませんよ。この模様がカードの印象を決めてる気がしますから。


川口 たしかに、全部簡単に描けてしまったら、ただのダメな絵になっちゃいますからね。


――ただ、苦労してもその部分で失敗したら、今度はその失敗だけが絵のなかで目立っちゃいますよね。


三上 ここ惜しいねって。


川口 ああ、たしかに。ここが気になりますって言われちゃうでしょうね。


――この絵ではちゃんと苦労が実ってるから、人の目がそこは素通りして、却って波模様に目を奪われちゃうのかもしれませんね(笑)。


と、今回は思わぬところに着地しましたが、画家と占い師のコラボレーションといっても特化した専門分野のお話だけでなくさまざまなやりとりを含みながら進行していたのがわかって、興味深いですね。おふたりの知識や矜持や譲れない部分がぶつかりながらも、形になっていく様子が少しずつ見えてきます。さて、次回はどこか深遠な物語を感じさせる「XII The HANGED MAN 吊られた男」です。どんなお話になるのでしょうか、お楽しみに。



***


注 ウェイト・スミス版:ライダー社の、通称ウェイト版のこと。パメラ・スミスが作画を担当したことも考慮に入れ、この対談ではこのように表記します。

 

[取材・構成 藤井まほ]

bottom of page