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X. WHEEL of FORTUNE -運命の輪-


X. WHEEL of FORTUNE -運命の輪-

 




トーキングアバウト青い鳥のタロット、今回は「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」のカードです。このカードは、「運命が動き出す」「新しい機会が来る」「回り始める」「転換点」「(精神的な探求が終わって)具体的な現場で生かされる」などの意味をもつとされます。


10の数字は「1」と「0」から構成され、「9」までの一桁の数字をまとめ、次の段階に進むポイントを表すとも言われています。

 

完成形はウェイト・スミス版に比較的近い絵柄ではありますが、ここに至るまでには紆余曲折あったとか……? そのあたり、じっくり伺ってみましょう。

 

 

三上 「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」は一桁のカードの集大成であり、それまでとはひとつ違う次元に上がる入口のような意味合いとされます。「9」から「10」に移行する瞬間にかちりとスイッチが入り、輪が回り出してものごとが動き出すイメージですね。歯車が回り始める、あるいは賽は投げられた、という感じです。運命は、人間の力では左右できないものであり、スフィンクスなど神話上の生き物が描かれているのはそういう意味で天上界を表しているとも言われます。

「10」で始まった動きはそれをとどめる動き(反作用)とあいまって、「11」の、陰陽で調和を図る「XI STRENGTH 力」のカードにつながっていくとも読めます。

 

川口 そのように最初に説明していただいて、わかったつもりでいたんですけどね。僕のほうでまとめきれず、基本の象徴から少し逸脱してしまったところもあって、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」は完成までに紆余曲折がありました。

 


――意外ですね。シンプルな図柄のように思えますけど。


川口 まず、ウェイト・スミス版の絵が平板で個人的にはしっくりこなかったので、このまま踏襲するわけにはいかないと思い、自分なりにいろいろな説明を読み込んで勉強したんですね。で、ラフ段階で最初に考えたのが、この世ではない、観念世界を背景にすること。運命にはよい波と悪い波があり、上がったり下がったりをしながらめぐっていくことを空中の階段で表現しようと。運命は天上から与えられるものだから、二人の天使が輪を回している。運命の扉が開くという意味で、輪の中央には扉を描きました。

 

最初のラフで三上さんはOKという感じだったので、次に線画に進んで……。その段階でダメ出しがあったんです。

 

三上 絵自体はすごく素敵だと思ったんですよ。かっこいい。Tシャツにしたらいいなと思ったくらい。ただタロットの絵としては引っかかったことが2点あったんです。ひとつは、「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」と絵の雰囲気が似ていること。もうひとつは、天使と扉が開くというモチーフが、天使がらっぱを吹いて墓の扉が開く「XX JUDGEMENT 審判」とかぶることでした。


 

――ウェイト・スミス版の「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」にも天使は描かれていますが……。

 

三上 天使自体は別に問題ないんです。「XX JUDGEMENT 審判」とモチーフが重なっているように感じられなければ。

ただ、線画の段階で、ラフにはなかった輪の中心から放射状に出ている光のすじが神々しさをプラスしていて、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」の絵としてはやや荘厳すぎるような気がしたんですよ。

ちなみに、ウェイト・スミス版「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」の左上に描かれているのは、水瓶座の象徴としての天使です。あの絵の四隅には、西洋占星術の固定宮星座を象徴する生物――牡牛座(牛)、獅子座(獅子)、蠍座(鷲)、水瓶座(天使)が描かれています。

 

 

 

――ホロスコープと同じで、反時計回りなんですね。


三上 もうひとつ気になったのは、この線画の「上がり」感です。

タロットの大アルカナ22枚のなかで、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」は10番目のカード。全体の流れで言えば、ちょうど中間くらいで発展途上です。一方の「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」は、最後のカード。大団円、あるいは双六の「上がり」のような意味合いがあると言われます。ところが、川口さんの最初の案だと、まだ中間地点の「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」なのに、すごく「上がり」感があって(笑)。


川口 順番通りに描き進めなかったひとつの弊害がここで表面化したっていう感じでしょうか。「The FOOL 愚者」もしくは「I The MAGICIAN 魔術師」から順番に描いていたら、自分も漠然とではあってもまだ中間地点だと意識できていたと思うんですが。


 

――ランダムに描いていたら、それは実感できないですよね。

 

川口 はい。順不同に描いていったのは経験則からの知恵なのですが、この点では弊害がありましたね。行けるときに行っちゃおう!って(笑)。僕はいつも、ほかの絵描きが簡単には思いつかないような絵的な取り組みを絶対に取り入れたいと思っているんです。ほかとはちょっと違うアイディアを出せるのが自分の売りだと思うので、そこは絶対に仕込みたい。その上で、絵画的に美しく構成しようという意気込みがある。加えて、個人的な嗜好としては天上界や宇宙的なイメージにぽんと行っちゃうのが好きなんです。


で、輪の向こう側が天上界で、中央に扉があってそこから光が放たれている、という案が浮かんだとき、「よし! キター! これで決まった!」って思っちゃったんですよね……。そもそも長方形に正円というレイアウトはかなり厄介な代物で、それがこうすればなんとかまとまりそうだということもあり、その意味で自分的には、もう「できている」絵を見せたら三上さんが……。

 

三上 芸術的にはすばらしい。いい絵ですけど、ダメです、と。そこまで、結構順調に、OK、OKと続いてきたところだったんですよね。だから、ここでダメ出したら川口さんを怒らせてしまうだろうなぁと半ばわかってました(笑)。「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」のときの経験から、ある段階まで来たら修正が利かない=描き直すしかなくなってしまうことは知ってましたから。


たぶん、川口さんとしてはこのタイミングでNGを出されて「何、否定しとんねん!(怒)」って思ったと思うんですよね。否定してるんじゃなくて、絵としては素晴らしいけど象徴としてはちょっと違いますと。第一「輪の中にこんなにみちみち入ってたら、回らないじゃん!」。

 


――(笑)。そういえば、ウェイト・スミス版でもマルセイユ版でも、「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」のカードでは、茅の輪くぐりみたいに、輪の中に両性具有の人がバッチリ入ってますね。


三上 「XXI The WORLD(UNIVERSE) 世界」に描かれた輪は、まさに茅の輪みたいな輪っか(リング)です。一方、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」の輪はホイール、つまり車輪なんですね。だからハブがあってスポークが出てる。川口さんの最初の案は、ホイールというよりはリングに近く感じられたんです。


もともと「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」と「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」は、構図やモチーフが似ていなくもないので、描き分けが難しいんじゃないかと思います。

 

ただ、タロットってぱっと見の印象がすごく大事なんですよ。切ったカードをテーブルに並べて占うのでそのときの印象が重要だし、どのカードかすぐに識別できないと。使う側としては、もっとぱっと見でわかりやすく描き分けていただきたいなと思ったんです。でも、あの頃、川口さんにはまだカードを並べるという感覚がなかったんじゃないですか。

 

川口 そうなんですよ。むしろ、そのとき描いている1枚1枚に入魂している。だから、三上さんのその説明を聞いてタロットを使うときのことが想像できて、初めて納得できました。

 

三上 私は個人的に川口さんの描いたタロットを自分が使いたいという欲があったもので、そこはなんとしても押さえておいてほしかったんですよね。


川口 この絵のとき、三上さんとは半分喧嘩みたいになってしまっていたので、そう言っていただけて励まされましたよ。三上さんがこだわっていることには耳を傾けなければと思ったわけです――それまで以上に。こうして製作過程で揉むことは、完成品を手に取った人にとっての価値につながるはずなので。


三上 監修者として自分の名前が入ってしまいますから、変に妥協はできないと思っていました。川口さんに、「どうしてもこの絵で行きます」と言われたら、もう監修を降りるくらいの覚悟で。


川口 あの頃までは、あまり細かい取り決めなしに進んでいましたよね。絵の仕事だと普通はラフでOKが出たら、基本的にその方向で行く。次の線画の段階では、構図や描かれた線はもういじらない。色や細かいところの修正のみOKという感じなんです。でも、三上さんとはそういう話をしないままに、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」まで進んでしまった。


ダメ出しされたときにはもう線画まで進んできてしまっていたので、正直頭を抱えましたね。「いやいや、この扉とその後ろの天上界を否定されたら、この絵、成り立たないよ。だってこの扉を中心に描いた絵だぜ?」。このとき三上さんはご家族と長期ご旅行中だったんですが、その旅先までメール送ってもろもろ問い合わせたり質問したり。

 

三上 幸い車の旅だったので、象徴事典を4冊携行していってて、さらに旅先ではググりまくり……(笑)。

 

川口 旅先まで追いかけてメール送るオレ。返してくれる三上さん!

 

三上 とにかく川口さんを納得させられるような根拠を持ってくる必要があると思って、いろいろ調べたりして。私が思いつきや個人的な好みで適当に言ってるんじゃないですよって。そこをわかってもらわないと(笑)。修正したり、描き直したりする価値のある理屈を引っ張ってきて、川口さんにも直したほうがもっとよくなるって思える、おいしいところを見せなきゃって思ってました。

 

川口 絵にとって大事なことと、象徴にとって大事なことって、たいていの場合食い違ってきますからね。

 


――そうなんですね! 確かにそういわれてみればそうかも。だから、絵としてはちょっとなんだかなぁと思うタロットでも、使い勝手は悪くなかったりする(笑)。けれども、川口さんと三上さんは、ぎりぎり両立するところを模索していたということですね。そこは、使う側にとってはちょっと見えにくい苦労のポイントかもしれません。

ところで、線画でNGが出たあと、どのようなやりとりを経てこの線画から完成形になっていったんですか。

 


川口 僕のほうから、どういう方向で直していったらいいか、具体的にいくつか案を出させてもらいました。そのなかに、輪の中央の扉を取ること、光のすじを車輪のスポークのように修正すること、ここで三上さんに「上がり」感、荘厳感と言われている雰囲気はアレンジしてそのまま「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」のカードの絵柄にもっていってしまうのはどうか、というようなことをお話ししたんですね。


三上 私から提案しては失礼かと思って飲み込んだ「これ、『XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界』に転用してみては?」という案を川口さんの口から聞けたことに驚きました。


川口 三上さんが、これでは「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」との違いがはっきりわからないと指摘されたのは、光のすじが輪を超えて漏れているものの神々しさが要因だと思ったんです。それで僕が描き出したかった天上世界のイメージは完成したのですが、半面、「XXI The WORLD(The UNIVERSE) 世界」との違いが出しづらくなったかと思います。これについては、実は僕も不安でした。それで、この感じは「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」では控えめにして、最後に使おうと。


結果的に、長方形に丸の難しいレイアウトではありますが、雲で回転する動きをつけて動的な安定でまとめたのは「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」ならではという感じがしてよかったと思います。そういう意味でこのカードにもちゃんと絵的に新しいアイデアがある。

光のすじで絵を作っていくやり方をここで覚えたので、この手法をこのあと描く太陽や世界で使えるようになったということもありました。「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」を描いた時点ではまったく自分のなかになかったものなので、これはある意味怪我の功名というか。


三上 9の隠者が持っていたカンテラの光が、10の運命の輪の車輪を回してると考えれば、カードの流れとしてもすごく納得できると思います。

 

川口 その捉え方すごく好きなんです。とてもロマンチックですよね。この「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」には、光と闇、太陽と月、昼と夜、晴風雨雪など、対比になるものをいくつか入れています。

森羅万象が偏りなく入っていて、ルーレットのように回るイメージです。

 


――このカードでは、青い鳥はどこにいるんですか?

 

川口 輪の中、光の近くにちっちゃく何羽か。来たる運命のその先には、やはり幸せの可能性はいくつもあって欲しいんです。それを手にできるかは自分次第だとしても、希望はあって欲しい。それも一つの形だけでなく。

 

――そんなふうに運命をポジティブな可能性とともに捉えられると、気持ちが明るくなってきますね。

 

比較的マルセイユ版ベースのタロットのほうに親しんでいたわたしには、「X WHEEL of FORTUNE 運命の輪」はシンプルな絵のように見えていて、それを制作するときにここまでのやりとりが生まれることになるとは想像もできなかったです。やっぱり、ものが作られるプロセスのお話はスリリングですよね。さて、次回は青い鳥のタロットでもかなり人気の高い「XI STRENGTH 力」のカードです。どんなお話が伺えるのか、お楽しみに。

 

 

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注 ウェイト・スミス版:ライダー社の、通称ウェイト版のこと。パメラ・スミスが作画を担当したことも考慮に入れ、この対談ではこのように表記します。

 

[取材・構成 藤井まほ]

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