トーキングアバウト青い鳥のタロット、今回は「VII the Chariot 戦車」のカードです。このカードは、「自己決定」「耐久力がある」「野心」「勢いよく進む」「意志」「勝利」といった意味を持つとされます。7という数字は奇数なので周囲に働きかける意欲を持ち、異なるふたつの間で方向性を得て進む、などと読まれます。青い鳥のタロットの「VII the CHARIOT 戦車」にも、そんなイメージがよく表れているような気がします。まずは製作過程のお話から――
川口忠彦(以下川口) このカードも、三上さんの説明を聞いてイメージがハッキリしてきたもののひとつです。
三上牧(以下三上) これは前の「VI The LOVERS 恋人」で選択した目標をめがけて戦車が駆け出すスタート寸前を描いていて、猪突猛進、もう決めてしまったので聞く耳を持たないという絵ですね。戦車に天蓋があるのは、天からの声を聞かないことを表しているといいます。愚直に突っ走り、前しか見えない盲目的なところもある。勢いとやる気にあふれた、鼻息の荒いカード、みたいな形でご説明しましたね。
川口 若き王の猛進ということで危なっかしく、やや過剰な勇ましさと、仮面の下に生の顔を描くことで青年ぽさが垣間見られればと思って、こんな絵になりました。実は、このカードは最初なかなかイメージが湧かず、苦労したんですよ。でも20代後半の自分の危うい勢いを思い出して、ようやく描けた気がします(笑)。絵の要素としてはとても古典的なまとまりになりました、ほぼウェイト・スミス版(注1)に準拠していますね。
三上 前回もお話ししましたが、「VI The LOVERS 恋人」では若者が二人の女性のどちらか選択するように見えて、実際には(上空のキューピッドが矢を射たほうを)「選択させられている」イメージがあります。人間がそれほど主体的に何かをジャッジできないことを表しているのでしょうね。選択しているようで、影響されている、そんな感じでもあります。
川口 そして、「VI The LOVERS 恋人」の選択を胸に、「VII the CHARIOT 戦車」は突き進むわけですね。僕の絵もウェイト・スミス版を踏襲して正面構図、シンメトリを基調としつつ、あおりの構図やスピード感を強調する方向でまとめてみました。
三上 川口さんのは迫力があって、いかにも「VII the CHARIOT 戦車」らしい感じがしました。ヘルメットがカッコいいし、重厚感がある。ほかのデッキでも、やはり正面向きの絵が多いんですね。揺るがない決意、みなぎるエネルギー、真っ向から受けて立つイメージ。その迫力や絶対に向きを変えません的な決意の表れかと思います。向かっていくことを恐れないというか。それと腹あたりにマークがあるデッキが多いですね。ベルトに装飾があったり輝いたりしています。お腹にはマニプラという赤い△のチャクラがあって、決断とか決心、実行力を示すんです。「腹を決める」っていう言葉は万国共通概念かもしれない。若き王の腹の部分の強調は、それを意味しているんじゃないでしょうか。
川口 描いているとき、若き王が手に持つ道具を、槍や斧に代えてもいいでしょうかって質問したんですよね。
三上 チャリオットの元型は空翔ける太陽神アポロンだという説があるんです。だとすると、手に持っているものは、権威を自分のものとしていることを意味する錫杖となります。武器だと意味が違ってきてしまうんだとお話ししましたよね。
――王位や権力の座を意味する錫杖と戦いの道具と、どちらかを持っているかでその人物の地位や役割がわかるっていうことですね。
三上 「VII the CHARIOT 戦車」って呼ばれてますが、この人はたぶん戦いに行くんじゃないんじゃないでしょうか。神と人間の中間くらいの存在で力は人間以上なので、おそらく武器はいらないはずです。武器というのは弱い者が持つものなので。
川口 この絵は、22枚の中で一番「青い鳥のタロット」らしくないんじゃないかと思います。若き王の勢いを示すのに、バンドのアートワークで培ってきたエネルギッシュな、スピード感を出すセンスをふんだんに使ったんですよ。
三上 そのスピード感がいいから、Tシャツにしたらって言ったんですよね。
川口 そうなんです、偶然そのとき僕も、この絵はTシャツにしたら売れるんじゃないかって考えてて、三上さんも同意見だったのでびっくりしました。
――このカードには、青い鳥はいないんですね。
川口 このカードが意味する「他者の意見を聞かず、猪突猛進的に勢いをつける状態」って、ある意味で「青い鳥」的な幸福とは一番かけ離れていると思ったので、描き入れませんでした。
三上 鳥も逃げる気迫、いいんじゃないでしょうか! わたしはこの馬たちがやる気満々なところも好きです。
――実際、半身が画面からはみ出すほどの勢いですからね。
川口 絵としては「IV The EMPEROR 皇帝」などと同じ正面構図、ウェイト・スミス版系のデッキに多いパターンです。意味的に、構成も変えようがない。でも僕は、ここからいかに脱却するかを考えて。三次元で考えた場合、このウェイト・スミス版では無理がある。これだと馬にあたるスフィンクスは超ちっちゃいじゃんってことになる(笑)。遠近法を生かして絵を作っていくとこんな感じになってきます。
三上 ウェイト・スミス版のはスフィンクスだから、小さくてもあり得ない力を出せるってことなのかも(笑)。でも、あそこで描かれたようなクルマで行けるのか?という疑問は残りますよね。
川口 その無理さがいいんだみたいな解説もありました。車輪が真横を向いているパターンもあって、実際には走らないのだがそこがいいのだ、と。でも絵描きとしては、言葉で解説しないとわからないような絵は描きたくないわけですよ。なので、ウェイト・スミス版からは猪突猛進感だけを拾いたいなと。もっとも、かなり準拠していますが。
三上 全然違うと思いますよ。王子の顔は隠れていて、人の話を聞く気がまるでないのがわかります(笑)。
川口 正面構図を採用すると決めたときに、ある程度準拠していこう、絵的な工夫だけで変化をつけて行こうと思ったんです。ただ、下から見上げたような、ちょっと攻撃的な雰囲気のある絵がほかにないので、その魅力を前面に出そうと。
三上 背景に槍みたいな謎の物体が放射状に描かれていて、飛びそうですよね。
――マンガで言うところの、効果線みたいに動きを作り出してます。
川口 ほんとうの効果線を描いたら急にマンガになっちゃうんですが、謎のデコレーションにしたところがうまくいったポイントだなと自負しています。こういうところが絵の面白さですね。効果線じゃないのに、その機能を持っているから、がーっと勢いよく進んでいるように見える。
――乗り物や馬具の水平方向の線との対比が生きてるんですね。
川口 絵としては描くのにすごく時間がかかったんですよ。人物、乗り物、馬2頭と描き込む要素が多く、絵画要素としても、パース、スケール比、アングル、それにスピード感など整理しなければならない要素がいろいろあって、実は制作に一番時間がかかった絵なんですよ。
――素人から見ると、意外なカードに手間がかかるんですね。
川口 「VII the CHARIOT 戦車」と「VI The LOVERS 恋人」と。後者は、人物が2人だったから。この2枚に2週間ずつかかって1ヵ月を費やしちゃったんです。あまり時間がかかったので自分でもショックで。
三上 「III The EMPRESS 女帝」とか「IV The EMPEROR 皇帝」とか、一人の人が座っているだけの絵は速かったのにね。ところで、「VII the CHARIOT 戦車」ってこれからやるぞという人にはいいカードだけど、安定感のある世界に憧れている人にはいちばんない力なんですよ。周囲とはなじみが悪く、打ち出し感の強い7という数だし。
川口 僕がライブペイントで一緒にやったIronfist辰嶋という、モヒカンで刺青だらけのドラマー(日本ハードコア界の重鎮)が個展を見に来て、アンケートに「オレは『VII the CHARIOT 戦車』がいちばん気に入った、あれはオレっぽい」と書いてくれたんですよね。(注2)
――走るドラム?
川口 そうそう(笑)。
三上 オレについてこいって?
川口 まさに。そのプレイの求心力とと存在感たるや、リードギターならぬリードドラマーと言われてましたからね。そう考えるとたしかに「VII the CHARIOT 戦車」のカード、このデッキの可愛らしいエッセンスが好きな方には少々刺激が強すぎるかも。
三上 そもそも、「VII the CHARIOT 戦車」の絵をどこに飾るのか。いまの世の中、「休憩したい」と思っている人が多いのに(笑)。そのドラマーの人は、ずっと前のめりだからいいのかもしれないですけど。
川口 彼はつねに気合い入ってますからね。送られてくるメールの最後には必ず、グーのパンチの絵文字がついてて、「頑張ろうっ!」って(笑)。
――わかりやすすぎます!(笑) でも、そのドラマーの方のように、自分と似通った世界観だからと気に入る人と、自分にないものを好ましいと思う人と、両方いますよね。そういう意味ではこの「VII the CHARIOT 戦車」に鼓舞される人もいると思いますよ。
これを読んでいらっしゃるみなさんは、「VII the CHARIOT 戦車」のカードをどのように感じますか? タロットの作られる過程やそこでお二人がどんなことを考え、やりとりしていたかを知ることで、意外にも1枚1枚のカードと自分(見る人、占う人)の距離感まで見えてくるのが興味深いですね。さて、次回は「VIII JUSTICE 正義」です。このカッコいい女性についてどのようなお話が伺えるのか、楽しみです!
**注1 ウェイト・スミス版:ライダー社の、通称ウェイト版のこと。パメラ・スミスが作画を担当したことも考慮に入れ、この対談ではこのように表記します。
[取材・構成 藤井まほ]