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IV. The EMEROR -皇帝-


IV. The EMEROR -皇帝-

 

今回のテーマは、前回の「III The EMPRESS 女帝」と対をなすとも言われる「IV The EMPEROR 皇帝」です。とめどなく生産するエンドレスなエンプレスに対して、地面を踏みしめるかっちりしたイメージの強い皇帝。青い鳥のタロットのデッキでは、かなりそんな印象の強いカードですが……。


――「IV The EMPEROR 皇帝」のカードを一言でいうとどんな感じになるでしょうか。


三上牧(以下三上) 「III The EMPRESS 女帝」との対比で言えば、末広がりの三角に対する四角。女帝で無計画に産み増やしたものを、地に足をつけて安定させていく流れです。堅実・物質的な安定感・現実的賢さや保守性を示すカードで、パターン化するという面もあります。柔らかそうな肉体に柔らかそうな服を着ている女帝に対して、皇帝は硬そうな鎧をつけ、硬そうな椅子に座っていますよね。あと、皇帝は靴を履いています。これは、次の「V The Hierophant 法王」との対比でも重要になってくるので、次回ご説明しますね。持ち物は、王位を示す錫と丸い球(持っていない絵柄のもあります)。威厳や権力、孤高の存在というイメージですね。


川口忠彦(以下川口) そのように説明していただいたので、威厳や威圧感はありつつも、恐怖を感じさせるのではなく、女帝から引きついた種をマネジメントして安定させ、しっかり運営していくイメージを意識しました。


三上 第1稿を見せていただいたとき、どしーんとして、足が大きくてしっかり地に着いているのが「IV The EMPEROR 皇帝」っぽくていいなと思いました。軸が真ん中にびしっと通っているし。


川口 初稿を見ていただいて、靴を赤くしたほうがいいと言われたんですよね。


三上 赤い靴は、皇帝のエネルギーが足元にあることをわかりやすく示すんです。インドのチャクラシステムにおいても、根の象徴である第一チャクラは赤なので、足元を赤にすることでグラウンディングした「どっしり感」を表せる。また、西洋占星術と象徴をリンクさせているライダー版では、「IV The EMPEROR 皇帝」は、牡羊座(戦いの神)のカードといわれることが多いです。牡羊座の支配星である火星は鉄や金属の象徴でもあるので、皇帝の鎧はとても大事なんですね。さらに、鉄は錆びるとベンガラ(弁柄、紅殻)という赤い塗料になることからもわかるように、スカーレット色(赤)は牡羊座のカラーでもあるんです。だから、川口さんの絵を見て「全体的に赤い色調なので問題ないないな」と思ったんですよ。でも、できれば靴も赤にしたらどうかなぁと。


川口 というわけで実際に靴全体を赤く塗ってみたんですが、いかにも「赤い靴ーはーいてたー」という感じになって変だったので(笑)、ちょっとだけ赤を入れる折衷的処理にしたんです。


三上 その代わり、下に敷いている布(マント)が赤い。これがいいですよね。


川口 作業を重ねていくうちに、三上さんのおっしゃることを絵にどうやって取り入れていくとよいのかが少しずつわかってきたんですよ。タロットとしての機能的な面と、絵的な部分とのすりあわせがだいぶはかられてきたと思います。


三上 私は、このプリングルズのキャラクターみたいな皇帝が好きなんですよ。威圧感はあるけれど、どこかかわいらしいのがいいんですよね。


――この絵では、4という数字もかなり意識されたとか。


川口 三上さんの説明でも、松村潔さんの本でも、このカードの4という象意が強調されていたので、しつこく仕込んでみました。たとえば、背後の蝋燭と皇帝の両足で示す四角形、そしてその四隅をイメージするためにあえて画面の中央にはポイントを置かないとか。構図が4角形というだけでなく、鎧も4分割、その中の模様も4つずつ、といったやり方で、「IV The EMPEROR 皇帝」のカードが象徴する「パターン化」を示せたことには自分でも満足しています。


三上 鎧の柄は鳥だけど、このカードに青い鳥はいないんですよね。


川口 そうなんです。全体を俯瞰し運営していく人物って青い鳥的な幸福感には包まれてないだろうなというのがあって。むしろ、使命を果たすことで間接的に充足される幸福感ではないかと。実は、子どもが生まれたばかりの男友達が、個展でこの原画を買って帰ったんです。


――わかりやすいですね。お父さんになるぞ! 大黒柱としてやっていくぞ!みたいな覚悟を感じます。


川口 4はパターン化してコピーを作り安定させていく。システムを作ったり。それは人為的な行為ですよね。それがもたらす安定感は、自然に同化する妊婦の安定感とは意味が違っていて、皇帝自身には幸福感みたいなものはない。使命を果たすことが結果として充足感につながるのであって、いったん個としての喜びを捨てるからできる役割なのかもしれない。僕個人の考えでは、男として崇高なあり方だと思うんです。


――たしかに「青い鳥」的な幸福感とは違うのかもしれません。


川口 足元で鳥が餌をついばんでいる表現も考えたけれど、絵の中に鳥を入れると甘さが出るので、鎧の柄として穀物が繁栄して鳥たちも育っていくというイメージで。設定としては、「この場所に青い鳥は見られない。だが、此の者が統べる国には無数に羽ばたいているだろう」。


――カッコいい! わたしはカードを手にするより先に個展で原画を見たんですよね。大きいサイズで見たとき、この絵の迫ってくる感じに圧倒されました。ライダー版のまったりのっぺりした皇帝とはだいぶ違うなぁと。


川口 このカードに限らず、ライダー版の絵に物足りなさを指摘する声もありますよね。その理由のひとつに、現代人が日常的に「カメラの映像」に親しむようになったことがあるんじゃないかなと思うんです。レンズリアリティという言葉もあるくらいで、ライダー版の作られた時代に比べると、レンズを通した映像にリアリティを感じる感受性が育ってきた。そんな時代だから、カメラが正面や水平のアングルだけだと、物足りないと思われやすいのかなぁと。絵を描くときでも、アングルを少し調節して要素を足してやるだけでも、飛躍的に面白さが出てくるんですよね。「IV The EMPEROR 皇帝」は、それが上手くいった例だと思います。


三上 「II The HIGH PRIESTESS 女教皇」のときにも、ライダー版は人物の視点が正面からのものが多くて、単調すぎるっていうお話がありましたよね。


川口 ライダー版の絵で、視線がまっすぐ来ていたり、正面からの構図で何のメリハリもついていないところは、絵を描く人間からすると「下手」に見えるところなんですよね。「IV The EMPEROR 皇帝」も、パース感や空間感が希薄なために、強さがうまく表現できていないと感じたんです。青い鳥のタロットの絵柄も、どちらかというとそういうパースや空間を殺すタイプの絵ではあるけれど、せめて少しは補おうと。「正面向いてて、目がこっち向いてたら、絵が止まっちゃうじゃん!」とどこかで感じていたから、自分の絵では無意識に視線をそらしたように描いていた。下からあおるアングルにして、さらにパース感も強調したことで、いい感じの威厳を表現できたんじゃないかと自分では思っているんです。


――ああ、それがこの絵の迫力の秘密だったんですね。よくわかりました。


川口 それから、マントが斜めに入ってくるあたり、対称の中に非対称を入れてこっそり変化をつけています。


――あと、色のメリハリも結構くっきりしていますよね。


川口 青い鳥のタロットの絵では、こんなふうに陰(陰影の《陰》の部分。物体の中で光が届かない部分。光が物に遮られて地面などに落ちる《影》と異なる)の部分を黒くつぶしていく処理は実は珍しいんですよ。ここでは皇帝の威圧感を出すべく、赤と黒のコントラストでファシズム的な威圧感を演出しました。赤黒配色を強く押し出した唯一のカードです。


――なるほど。しかも闇の中から皇帝が浮かび上がってこちらに向かってくるようで、動きを感じます。お二人からこのタロットのお話を聞くのがますます面白くなってきました。次回は「V The Hierophant 法王」ですね。2枚続けて男性カード、「IV The EMPEROR 皇帝」とではどんな違いが出てくるのでしょうか。みなさん、どうぞお楽しみに。

 

[取材・構成 藤井まほ]

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