2023年12/12(火)~16(土)、神保町 ギャラリーCORSO(コルソ)にて
第4回個展 川口忠彦展 『わたしたちはみな孤独 ひとつの例外もなく』を開催し、無事終えることができました。
ご来場者は350人を超えたと思われます。
ご来場いただいたみなさま、告知にご協力頂いた皆様に心よりお礼申し上げます。
知らなかった方、来られなかった方のため。
そして来場して気に入ってくださった方の想い出を温めるために
内容をご紹介致します。
「たくさんのギャラリーや個展を見てきたが、一番良かった」
「個展というもので初めて泣いた」
「ギャラリーで泣くとは思わなかった」
「何十本ものゲームをプレイしたような感覚」
「ゲームでは未だ感じたことのない感情が込み上げてきた」
9年ぶりとなる今回の個展では、そういった言葉をたくさん頂きました。
さまざまな世代、性別、過去のゲーム作品を知っているかどうかにかかわらず、多くの方がそれぞれの感受性で、この個展と共鳴してくださいました。
面と向かって話してくださりながら、あるいは言葉に詰まり、涙を浮かべ、流している人も、何人もいらっしゃいました。
間違いなく、これまで4回の個展の中で、突出した高い評価をいただけたと思います。
もちろんこれからもっともっと良い仕上がりにしていくべく、研鑽に励んでまいりますが、ひとまず「9年ぶりの開催」としては、ある程度の形にできたという自信にもなりました。
励みになるお言葉の数々、まことにありがとうございます。
◆展示概要 幻想絵画を中心にゲーム派生作品、青い鳥のタロット記念絵まで
これまでのタロットカードやバンド向けのアートワークから離れ、この9年間で描き続けてきた「幻想絵画」を基調に構成しました。
「幻想絵画」というくくりの中で、もちろんオリジナルを中心としながら、地続き的につながっている過去のゲーム作品(「セブン モールモースの騎兵隊」「ヴィーナス&ブレイブス」「ACE COMBAT5の劇中童話 姫君の青い鳩」といった、わたしがナムコ(バンダイナムコ)でアートディレクターや監督として手掛けてきた作品世界やそこから派生したエッセンスを散りばめてあります。
◆幻想世界の《絵画》《詩篇》《音楽》を融合させた総合演出空間
約30点の幻想絵画に、30の詩篇を組み合わせて展示しまた。
詩は、それぞれの絵の発表時に同時に作りためてきたものを中心に、書き下ろしも加え、絵と合わせて、さまざまな物語風景を感じながら鑑賞できるようになりました。
さらに、空間を包む音楽を設置し、
絵と詩と音楽を融け合わせて味わえる、あまり類を見ない形式の個展となっております。
ばらばらに描かれた絵と詩篇は、絵本のようなはっきりした前後関係や因果関係を持ちません。
しかしそれらはどことなく通じ合い、響き合い、さらに音楽に導かれ
やがてすべてがなにか「大きなもの」に向かって拡大しつつ収束していくという不思議な感覚につつまれます。
《絵を見る》《詩を読む》《音楽を聴く》という独立した要素ではなく、
全体を一つのテーマやエモーションで融け合わせ、
ひとつの大きな世界観を味わえるという、ゲーム監督出身のアーティストならではの、唯一無二の体験だったかもしれません。
◆《音楽》と総合演出へのこだわり
また、音響システムにもこだわりました。
会場内に少しずつ異なる音源をインストールした6つのミニスピーカーを設置。
空間全体を包み込む音響は、音源の存在を意識させず、歩き回って絵と詩を鑑賞する際に、いつでも心地よく立体的に音響を感じられます。
スピーカーの配置にも意味をもたせ、「このスピーカーからだけ人の声が聞こえる」などの演出を加えつつ、全体でひとつの神秘的な《音楽風景》を作り出します。
もちろんそうしたユニークなスピーカーの仕掛けだけでなく、中身の楽曲もしっかりつくってあります。
わたし自身がすべて作曲していることにより、全体の絵や詩篇のトーンと《完全にシンクロするエモーションをもつ楽曲》。
声の演出は、この展示のテーマや、並べられた詩篇と共鳴しあい、ひとつひとつの絵と寄り添い、離れ、さらにイメージをふくらませ、世界が広がっていく仕掛け。
トータル30分となる音楽演出は、「極めて評判が良かった」です。楽曲の販売や配信を熱望する声も多くいただきました。
敬愛する音楽ライターの山本淑子さん(細野晴臣氏の著書を取材構成など)にも大変高い評価を受ける一品となりました。
作曲は私一人で行っていますが、演奏面では、ヴァオリン・ヴィオラパートにプロプレイヤーでありMUSICエンジン主宰の河合晃太さん、ギターパートに下田賢佑さん(First Mammal)に全面参加していただくことで、プロクオリティの演奏基軸で支えられています。
声の演出も、2名のイングリッシュ・ネイティブに参加いただき、質の高い音声演出を実現しました。
正直、絵のアーティストの個展としてはかなり、その領分を超えた、不思議な幻想空間になったことと思います。
振り返れば、これはすべて「せっかく各地から訪れてくれる皆様に、可能な限り良質な鑑賞体験をしていただきたい、自分にできる全てを捧げて楽しんでいただきたい」という一心から現れてきた、ゲーム監督・アートディレクターとして、オリジナルRPGを作ってきた者の「抑えきれない血」だったと思います。
結果的に、わたしが大好きな《アート》と、《黎明期の優れたゲーム作品の世界観体験》の2つを融合するために、スキルやセンスを全開で発揮することができました。
◇
こちらは会期直前にSNSでの最終告知として制作したティザー動画です。音楽や全体の雰囲気が少しだけ感じられるかもしれません。
00:00
00:50
◆良質な鑑賞体験を支える施策
◇音声ガイドを導入
作家による作品説明を喜ぶ方も多いと過去の個展から知っていました。
これをどうにか機会を平等に、かつ会場で大声を出したりせず、聞きたくない方と住み分けできる方法を考えて『音声ガイド』を実験的に導入してみました。
すべてを聴くとトータル50分と長いですが、作品ごとにチャプター分けもしてあり、かなり多くの方がご利用くださり、喜んでくださいました。
◇理想的な「鑑賞環境」のために
せっかくの個展ですので、鑑賞されるすべての方ができるだけ理想的な状態で堪能できるように、今回から工夫を加えてみました。
今回はとりわけ《音楽》も大切な展示作品ということで、会場内は「お静かに」「会話を控えて」との協力をお願いしました。
みなさまに協力いただき、本当に静かな鑑賞環境になりました。
わたし自身も場内でのご挨拶や雑談を控えたり、また「場内撮影禁止」にさせていただくことで、気が散ることなく、じっくり時間をかけて楽しんでいただけたようです。こういった理想の鑑賞環境はぜひ実現したかったことなので、次回以降も継続していこうと思います。
音声ガイドも含め、1時間、2時間と滞在される方もちらほら見られ、試みは一定の成功を収めたと思います。
◇メッセージコーナー
上記の理由から、わたしがご来場者様と長く歓談できないため、そのぶん「メッセージコーナー」を用意して、感想の手紙を投函していただきました。
これもまた、大変多くのかたに書いていただき、ありがたかったです。
展示を通じて感じた思いを綴っていただくことで、ご自身の鑑賞体験がさらに実り豊かなものになったのでは、と僭越ながら考えております。
手書きでのメッセージ以外に、SNSでのハッシュタグへの寄稿もお願いしました。
◇作品販売
会場では個展の図録となる新作画集(発売中)の他に、おおむね9000円~2万円弱で作品を販売致しました。もともとすべてプロユースの出力機で印刷したデジタル画なので展示物と全く同等のものを、絵画作品としては安価にお求めいただけるせいか、かなり多くの方にご利用いただきました。
複数購入される方も多く、正直とてもおどろきしました。ほんとうにありがとうございました。
◆わたしの過去のゲーム作品(セブン・V&B)が好きで、はじめてこのページにたどり着いた方へ
ぜひこちらの記事の後半を読んでいただけると、ここまでの非常に有機的つながりがお楽しみいただけるかと思います。
◆おわりに
以上、2023年12月に開催した第4回個展『わたしたちはみな孤独 ひとつの例外もなく』の展示内容のレポートとなります。
できるだけ、あの不思議な空間を知っていただけるように工夫してみましたが、どれだけ文字や画像を並べても実体験の1%もお伝えできないだろうと、悶々としてしまいます。
『絵と詩篇と音楽の融合』とは言っても、おおがかりなVRや最新の機器をふんだんに使ったメディアアートのようなスケール感はありません。老若男女すべてがひと目見て「すごい」と漏らすような、明快な「すごさ」はありません。
しかし、かつて人が星空を見上げて神話を語ったように、指輪物語を文字で楽しんだように、ドラクエやFFの世界をファミコンのドット絵と3和音で大冒険したように、創作物からエモーションを感じ取るのに、本来、物質的な豪華さは必ずしも必要なものではありません。
むしろ、中途半端に具現化せずに、暗示的表現から受け取り手が広げるイマジネーションのほうが遥かに壮大だと、私は思うのです。
そういったことを信じて、これからも私個人のできるささやかな範囲で、おおきなおおきな夢とロマンを抱いて表現していきたいと思います。
このレポートをご覧いただいて、興味が湧いたなら、ぜひ次回の展示にいらしてください。ほんとうに、 生きているうちにあと何回できるかわからないので。
遠方の皆様には時間や旅費のご都合がありますゆえ、無理じいはできませんが
ありがたいことに当初から「遠征組」が存在していたわたしの活動の中で、
「遠くからいらしても、十分に楽しめる」ように、上記のようなさまざまな工夫を施しております。
偶然にもご都合の重なる時、余裕のある際にはご来場いただけたら嬉しいです。
(巡回展などはまだまだとおい夢の話でありますゆえ)
ひとりでも多くの方に「来てよかった」と思ってもらえるために、
もっともっと高いレベルで表現できるよう、日々研鑽に励んでまいります。
大切につくってきた作品と空間が、あなたをお待ちしています。
お読みいただき、ありがとうございました。
【速報】2024年、今年の個展の予定がたちました
12/10火~14土 神保町にて
まだまだ描き溜めてきた絵が沢山あります。
来年までは、描き方めた分を放出する段階で 年一回開催そのあとは 新作発表を中心に 2〜3年ごとというイメージです
そう思うと 生きているうちにあと10回できればいいほう、かなと。
いや ほんとうに。人生って短いですね。 お見逃しの無いようお願いいたします
ぜひ続報をお待ち下さい。
2023.12.12 – 16 東京 神保町にて